公開講座
高校生・大学生のための
アクティブ・ラーニングによる力学入門
□概要
昨年夏に東京で開催された物理教育国際会議では、アメリカを中心として近年展開されている物理教育研究(Physics Education Research)の代表的な研究者たちによる全体講演やワークショップが大きな注目を集めました。それは、大学の物理の教育を個人の経験主義にもとづくものから、物理学の1つの研究分野として確立していくという目標を持って、学生の理解の実態についての実証的な調査研究を行い蓄積し、それらの研究結果にもとづくカリキュラム開発を行うなどするもので、その結果、力学を初めとする多くの分野で著しい教育成果を挙げ始めていることが報告されています。
私たちアドバンシング物理研究会(京都・和歌山)は、京都および和歌山の高校・大学の教員を中心とする自主的な研究会組織で、これまで、5年以上にわたって、英国物理学会の製作したイギリスのAレベル(日本の高2・高3年齢に相当)段階の新しいコース「アドバンシング物理」を中心に、海外の新しい物理教育の試みを検討することを通じて、日本の物理カリキュラムのあり方を模索してきました。今回の公開講座では、アメリカの物理教育研究の成果の代表例の1つである、Sokoloff(Oregon大学),Thornton(Tufts大学)らの開発したカリキュラムRealTime Physicsの動力学分野の教材にもとづいた授業を試行します。この教材の第1の特徴は、いわゆるActive Learningの考えにもとづいて、生徒・学生が、実験の結果を予想し、班で議論し、その結果をIT機器を用いた実験で即時に確かめて、予想と比べ理解していくという手順で学ぶものとなっている点です。また、第2の特徴は、運動学やニュートンの3法則の、数量的な理解ではなく、概念的な理解に焦点を絞っている点にあります。
本公開講座には、4つの目的があります。第1に、われわれ自身の手でこれらのカリキュラムを実地に試すことによって、報告されているような概念的理解の著しい向上の効果があるかどうかを検証したいと考えています。このために、Sokoloffら自身が開発し、アメリカの多くの大学で用いられているForce and Motion Conceptual Evaluation(力と運動概念評価問題)の日本語版を作成し、これを事前・事後テストとして用います。
第2に、この公開講座は、日本でアクティブ・ラーニング型の授業をする際にどのような利点と難点があるかを実際の試行によって調べるという意味があります。私たちは、このような共同の準備による公開講座という形式が、高校教員のカリキュラム研究の道を開くと考えています。
また、第3にこの公開講座は、参加した教員にとっては、新しい授業形態を学ぶ研修の意味があります。
そして、第4に、この公開講座が、参加した高校生・大学生にとって、力学の概念的な理解を向上させるよい機会になるだろうと期待しています。
私たちとしては、今回の公開講座が、日本の物理教育の新しい可能性を開く試みの1つであると思っております。理科教育・物理教育に関心のある皆様の参観と忌憚のないご意見をお願いします。